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『恐竜の世界史――負け犬が覇者となり、絶滅するまで』(著者:スティーブ・ブルサッテ)

ここ2,3年ぐらい僕は童心に帰り恐竜に夢中になっている。
きっかけは2021年に横浜で開催された恐竜科学博だった。
ただの暇つぶしで行ったつもりだったけれど、改めて見るティラノサウルスやトリケラトプスの迫力に圧巻だった。
かつてこんなにも巨大な生物が地上を闊歩していたと想像するだけで興奮が収まらなかった。

そんなこんなで恐竜のことを改めて詳しく知りたいと思い『恐竜の世界史――負け犬が覇者となり、絶滅するまで』を読んでみた。
本書は文字通り恐竜の誕生から絶滅までの物語だ。

物語は2億5200万年前の中世代三畳紀から始まる。恐竜といえば中世代の支配者というイメージだったが、三畳紀にはおいて恐竜は小柄な存在で偽鰐類(ワニの祖先)やオオサンショウウオのような大型の両生類の影でひっそりと暮らしていたようだ。
変化が起きたのは2億4000万年前の三畳紀末期だ。地殻変動の影響で自然環境が変化したため、偽鰐類や両生類の数が減少する一方、恐竜は環境に適応し数や種類が増加した。

そしてジュラ紀になると恐竜は勝者となった。ジュラ紀最初の数千万年間を通して多様化し、生息域を広げていった。体も大型化し、アロサウルスのような大型獣脚類やブラキオサウルスのような巨大な竜脚類が誕生したのもこの時期だった。
特に面白いと思ったのは「ニッチ分割」の話だ。「ニッチ分割」とは同じ場所に棲む生物種同士が互いに争わなくて済むように、行動の仕方や食べ物の種類を相手と少し変えることをいうようだ。竜脚類を例に挙げると、ブラキオサウルスは首を高く持ち上げることができるため樹木の頂上付近の葉を食べることができた。一方でディプロドクスの首は肩より少し高いところまでしか持ち上げることができず、低い位置の歯を食べていたようだ。今までは同じ竜脚類同士の姿を見てもイマイチ違いがわからなかったが、そのような視点があることが新発見だった。

最も有名な恐竜であるティラノサウルが生きていたのは白亜紀であるが、実際には白亜紀末期の2000万年ほどしか生きていない。
ティラノサウルス類の起源となる恐竜はジュラ紀中期に誕生していたがその頃は体は小さく、食物連鎖の頂点であるアロサウルス類の影でひっそりと暮らしていた。白亜紀前期から中期にかけて徐々に大きくなっていたが、その頃の食物連鎖の頂点はカルカロドントサウルス類だった。
ではどのようにしてティラノサウルス類は他の大型獣脚類から地位を奪い取ったのか。実はその理由はよくわかっていないらしい。白亜紀中期頃の化石はあまり多く見つかっておらず空白の期間になっているせいだ。しかし、8400万年前頃の地層から急にティラノサウルス類の化石が多く見つかってくるようだ。
理由が何であれティラノサウルスが白亜紀末期に食物連鎖の頂点にいたのは事実だ。ではティラノサウルスが頂点に上り詰めるために使った武器は何だったのか。箇条書きでいくつか挙げると「圧倒的な体の大きさ」「約1400キログラムに及ぶ噛む力」「チンパンジーと同程度の知能」「敏感な嗅覚、視力、聴覚」である。特に「知能が高い」ということについては結構な驚きだと思う。

そんなティラノサウルスであるが6600万年前にある日突然に小惑星の衝突により絶滅してしまう。もちろんティラノサウルス以外の非鳥類型恐竜も含めてだ。
「非鳥類型恐竜」という言葉はあまり聴き馴染みがなかったが、文字通り鳥類以外の恐竜のことを指す。今では鳥類は恐竜に含まれるのが常識のようだ。かつては羽毛が生えているかどうかが一つの境界となっていたようだが、近年では羽毛が生えた恐竜が見つかり、もしかしたら全ての恐竜にも羽毛が生えていたのではないかという説もあるらしい。また、行動様式や体の作りも恐竜と鳥類に大きな差がないとも言われ、明確な境界線を引くのは難しいそうだ。
近所を散歩しているとたくさんの鳩を見かけるが、そこには恐竜のDNAが刻まれていると思うとロマンを感じずにはいられない。

以上、ざっくりと本書の内容で面白いと思った箇所をいくつか書き出してみた。
他にも本書には化石発掘現場の臨場感が味わえるような描写や古生物学者の研究の軌跡なども盛り込まれていて、その辺りも興味深く読むことができた。
子供の頃は図鑑をめくっているだけで楽しかったが、大人になって文章のみの恐竜の本を読むのも楽しいなと思える1冊だった。

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